総合プロジェクトの定例会も、1月末の卒業研究提出に向けていよいよ最終段階に入りました。中間発表では、多くの学生が「デザインの迷い」や「方向性の再考」に直面しました。単に形を作るのではなく、まだ見過ごされている価値に目を向け、思考を深めることが求められます。
今回は、そうしたプロセスを経て進化を続けている各プロジェクトの中から、「文化をPLAYする」の進捗をご紹介します。
花柳界を感じる化粧体験
本プロジェクトでは、「化粧」という視点から、江戸時代と現代のつながりを探る研究を行っています。
学生が着目したのは、芸者が紅を差すときに用いる「紅差し指」に込められた美しい所作と、その意味。そこに、現代の若い女性にも親しみやすい「魔法少女」の要素をかけ合わせることで、誰もが「粋に変身」できる文化体験を提案しています。
紅を差すという行為そのものに「変身」や「自己表現」の感覚を込め、文化をPLAYする(=文化を愉しみながら体験する)メイク道具の開発を目指しています。
プロトタイプ製作
現在制作中のプロトタイプは、紅差しを収納する変身アイテム風ケースと専用メイクブラシです。
デザインには墨田地域の象徴である墨堤の桜や、魔法少女的なハートや星、立体的な装飾を組み合わせています。和の繊細な美しさとファンタジー要素が融合し、まるで魔法のように“変身”できるアイテムとして存在感を放っています。
今後の展開
今後は、フィードバックをさらに具体化しながら、ディテールの調整や素材選定を進めていく予定です。加えて、向島の芸者さんへのヒアリングも実施し、よりリアリティのある表現を目指してプロジェクトを仕上げていきます。
最後に講師からは、「見た目や機能性だけでなく、使うときの動作までデザインに組み込むと体験がより豊かになる」とのアドバイスがありました。
たとえば、紅を差す際にあえて薬指を使った所作や、ケースを開ける一連の動きも体験の一部として設計することで、使う人の気持ちを“変身”へと高められると期待されています。
水と光を使った花火体験の再解釈
400年にわたり花火文化が受け継がれてきた町、墨田・向島。
この伝統を現代の感覚で体験として再構築するプロジェクトが進行中です。本プロジェクトは、光と水を使って花火の偶然性や余韻を表現し、見るだけではなく「体験する花火」を目指しています。
これまで、地域の花火店を巡るフィールドワークや、タッチデザイナーを使った光源の作成、プラスチック半球や偏光板を使った光の変化の検証を重ねてきました。
こうした取り組みを通して、花火がもつ情緒的な魅力を現代的な手法で引き出す方法を探っています。
中間発表でのフィードバック
中間発表では、モノとしての変化性や終わりの表現について、さまざまなフィードバックが寄せられました。「もう一度やりたいと思わせる動機づけをどう作るか」「光が何か始まり、そして終わっていくような体験の仕組みをどう作るか」といった指摘です。
これを受けて、光源に「終わり」をつくる方法を検討しました。現在は、墨田区内で開催中の地域博覧会「すみだ向島EXPO06」(10月4日〜11月3日)に試作品を出品し、来場者に体験してもらいながら、実践的な検証を続けています。
すみだ向島EXPO06での発見
体験を通して得られた気づきのひとつは、暗闇から光が始まることで、自然に体験者同士の会話が生まれる空間ができることです。
光が余韻を補完することで終わった後も感覚として余韻が残ることなど、花火体験の情緒的な魅力を引き出す新たな発見もありました。
今後の展開
今後は、EXPOでの検証を重ねながらフィードバックを反映し、「終わらせる方」の演出も含めて実践と改善を続けていきます。光と水という現象を活かすことで、モノとしての面白さと、現象としての魅力の両方を引き出すことを目指しています。また、花火の偶然性を活かした表現の可能性にも挑戦し、より情緒的で印象的な体験を追求していきます。
定例会に参加してみて
学生たちは「文化をPLAYする」というテーマのもと、江戸文化や花火文化を現代的に再解釈し、体験型の作品を作り上げています。
細部までこだわったプロトタイプや光と水を使った演出から、探究心と創造力が感じられました。作品がどのように完成していくのか、今後の進展がとても楽しみです。
墨田キャンパス:墨田サテライトキャンパスとdri | ちばだいプレス
アクセス:〒131-0044 墨田区文花1-19-1 東武亀戸線 小村井駅より徒歩5~10分



